未払い残業代に関する是正勧告
「残業代(割増賃金)をきちんと支払っていない。」
意図的に残業代を支払っていない場合だけではなく、残業代の計算を間違えてしまった場合も含められます。
実際の是正勧告では、未払い残業代(既に支払った残業代との差額)を過去に遡って支払うように求められます。
賃金請求権の時効は5年(当分の間は3年)なので、最長で過去5年(当分の間は過去3年)に遡って未払い残業代の支払を求められる場合があります。
以前は、悪質なケースを除き、過去5年(当分の間は過去3年)分の支払いを求められることは稀で、およそ過去3か月分程度の支払を求められる場合が一般的でしたが、近年は、きちんと過去5年(当分の間は過去3年)分に遡って支払いを求めるケースも増えてきています。
未払い残業代に関する是正勧告は、実際に、会社に金銭的な損失が発生します。従業員が数十人の会社でも、数千万円の支払いを請求されるケースも少なくありません。
会社にとっては、是正勧告を受けることがないように、賃金や労働時間の体系を見直し、事前に残業対策を講じることが重要です。
労働時間に関する是正勧告
「36協定の届出なく、法定労働時間を超えて従業員を労働させている。」
労働基準法では、労働時間は、法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超えて労働させてはならないことが規定されています。
法定労働時間を超えて労働させる必要がある場合には、労働基準法第36条に規定する「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」を労使で書面で締結して、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
36協定を届出しないまま、法定労働時間を超えて労働させることは法律違反です。たとえ、残業代をきちんと払っていたとしても、36協定を届出していなければ、違反となります。(詳しくは、「36協定の効力」をご参照ください。)
36協定については、次の点にも注意が必要です。これらの事項が守られていない場合も、是正勧告による指導の対象となります。
○ 会社単位ではなく、事業場単位で届出が必要です。
つまり、本社の他に、支店、工場、店舗などがある場合には、それぞれ36協定を届出する必要があります。
○ 36協定は従業員に周知が必要です。
36協定は届出をするだけでは不十分です。それを従業員に周知する必要があります。周知方法としては、常時従業員が閲覧できる場所に備え付ける、従業員へ書面で交付するなどの方法があります。
○ 36協定には有効期間があります。
36協定の有効期間は最長でも1年間と決められています。1度届出すれば終わりではなく、毎年、労使で書面で協定を結び、所轄の労働基準監督署へ届出しなければなりません。
就業規則に関する是正勧告
「常時10人以上の労働者を使用しているにもかかわらず、就業規則を作成・届出していない。」
労働基準法では、「常時10人以上の労働者を使用する者は、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届出しなければならない。」と規定されています。また、就業規則の内容を変更した場合も、その都度届出が必要になります。
したがって、常時10人以上の従業員がいる会社が、就業規則の作成・届出を行っていない場合や、就業規則を変更したにもかかわらず、その届出を行っていない場合は法律違反となります。(詳しくは、「就業規則を作成・届出すべき会社とは」をご参照ください。)
就業規則については、次の点にも注意が必要です。これらの事項が守られていない場合も、是正勧告による指導の対象となります。
○ 会社単位ではなく、事業場単位で届出が必要です。
つまり、本社の他に、支店、工場、店舗などがある場合には、それぞれ就業規則を届出する必要があります。また、「常時10人以上の労働者」も、事業場ごとの労働者数で判断します。(※本社で一括して届出する方法もあります。)
○ 絶対に記載しなければならない事項が決められている
就業規則には、絶対に記載しなければならない事項や、定めをする場合には必ず記載しなければならない事項があります。たとえ、就業規則を作成・届出したとしても、これらの事項の記載が無い場合は、是正勧告により指導されることになります。
○ 従業員代表の意見を聴く
労働基準法では、「就業規則を作成・変更する場合は、従業員代表(労働組合又は従業員の過半数を代表する者)の意見を聴かなければならない。」と規定されており、労働基準監督署へ就業規則を届け出るときは、従業員代表の意見を記載した書面を添付しなければなりません。
○ 就業規則は従業員に周知が必要です。
就業規則は届出をするだけでは不十分です。それを従業員に周知する必要があります。周知方法としては、常時従業員が閲覧できる場所に備え付ける、従業員へ書面で交付するなどの方法があります。
法定帳簿に関する是正勧告
「労働者名簿、賃金台帳、有給休暇管理簿に必要事項が記載されていない。」
労働基準法では、「労働者名簿や賃金台帳などを、各事業場ごとに調製(作成)しなければならない。」と規定されています。
労働者名簿や賃金台帳などの法定帳簿を、作成していない場合、必要事項が記載されていない場合、あるいは保存期間内にもかかわらず保存していない場合などは、是正勧告が行われることになります。
労働者名簿、賃金台帳の記載事項は次のとおりです。
労働者名簿の記載事項
- 氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類
- 雇入れの年月日
- 退職の年月日及び退職の理由
賃金台帳の記載事項
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外・休日・深夜の労働時間数
- 基本給、手当、その他賃金の種類ごとにその額
- 賃金の一部を控除した場合には、その額
有給休暇管理簿の記載事項
- 基準日(付与日)
- 日数(付与日数、取得日数、残日数)
- 時季(取得時季)
保存期間は、労働者名簿は、労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間、賃金台帳は、最後に記入した日から3年間保存しなければなりません。
健康診断に関する是正勧告
「従業員に対して健康診断を実施していない。」 または、「健康診断の事後措置を行っていない。」
健康診断には、雇入れ時の健康診断、定期健康診断などがありますが、これらを実施していない場合にも、是正勧告が行われます。
雇入れ時の健康診断とは、従業員を採用した場合は速やか行わなければならず、採用した従業員から、3か月以内に実施した健康診断の結果の提出があれば、それで代用もできます。
定期健康診断は、常時使用する従業員に対し、1年以内に1回行うことが義務付けられています。
また、健康診断は、実施すること自体が目的ではありません。
会社として、従業員の健康を管理し、健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員に対して、適切な事後措置を取ることが目的であり、健康診断を実施することはそのための手段にすぎません。
したがって、ただ健康診断を実施しただけでは、会社として取るべき措置は不十分と言えます。
実際、労働安全衛生法では、「健康診断結果において、異常の所見があると診断された労働者の健康を確保するために必要な措置について、当該健康診断が行われた日から3か月以内に医師から意見を聴取しなければならない 。(なお、聴取した医師の意見は健康診断個人票に記載すること。)」旨が定められています。
健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員がいるにもかかわらず、会社が、医師から意見を聴取するなどの措置、いわゆる健康診断の事後措置を怠っている場合は、健康診断を実施していたとしても、労働基準監督署から是正勧告が行われることになります。