残業代込みの賃金設計(定額残業代(固定残業代)制度)

定額残業代制度の要件

定額残業代制度が、法律違反ではなく、有効であると認められるためには、次の3つのポイントが備えられているかどうかが重要となります。
定額残業代制度のポイント

定額残業代部分が、それ以外の賃金と、明確に区分されていること
定額残業代部分には、何時間分の残業代が含まれているのかが、明確に定められていること
時間外労働(残業)時間が、上記2.で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金の支払うこと

このようなポイントが、就業規則等で明確に定められていないならばなりません。

例えば、定額残業代制度において、就業規則で、「1か月あたり20時間分の残業をしたものとして、定額残業代3万円を支給する。」と定めた場合(※まず、このように何時間分の残業代が含まれているのかを明確に定めることが必要です。)

従業員の1か月あたりの残業時間が20時間よりも少なかったとしても、会社は、その従業員に対して、定額残業代として定額の3万円を支給しなければならず、定額残業手当を減額することはできません。

一方、従業員の1か月あたりの残業時間が20時間を超えた場合は、会社は、その従業員に対して、定額残業代として定額の3万円を支給する他に、20時間を超えて労働した時間分について、別途割増賃金を支払わなければなりません。

定額残業代の類型・設定方式

定額残業代と一口に言っても、定額残業代には様々な類型があります。

主なものを紹介すると、次の①~④の類型があります。

類型 規定例
定額残業代として支払う方法 ○時間分の残業代に相当する額として定額残業手当を支払う。
② 基本給または特定の手当の一部に、定額残業代を含めて支払う方法 基本給のうち、○万円は、○時間分の残業代に相当する額として支払う。
③ 特定の手当を、定額残業代として扱い支払う方法 職務手当は、○時間分の残業代に相当する額の定額残業代として支払う。
年俸の中に、定額残業代を含ませて支払う方法 年俸には、○時間分の残業代に相当する対価を含めるものとする

そして、基本的に、上記①~④の全ての類型に、それぞれ、「時間設定方式」と、「金額設定方式」の2種類の設定方式があります。

設定方式 規定例
時間設定方式 ○時間分に相当する額を、定額残業代として支給する。
金額設定方式 ○円を、定額残業代として支給する。

いずれの場合も、何時間分の残業代として、いくらの定額を支払うのかを明確に定め、従業員に対して、個別に明示する必要があります。

なお、金額設定方式において、すべての従業員の定額残業代を同一額に設定してしまうと、残業単価は従業員ごとに異なるので、それが何時間分の残業代に相当する額なのかは従業員ごとに大きなバラツキが生じます。そのため、公平性を確保するためには、職務(職位)等に応じて何段階かの額を設定するなどの工夫が必要です。

定額残業代の計算方法

定額残業代の額は、以下の計算式によって算出します。
定額残業代の計算方法

定額残業代=(賃金総額−定額残業代)÷月平均所定労働時間×割増率×時間外労働時間数
計算例

例えば、月平均所定労働時間が173時間の会社において、賃金総額が30万円の従業員に対して、1か月あたり30時間分の定額残業代を含んだ賃金設計としたい場合、

定額残業代をxとすると
x=(30万円−x)÷173時間×1.25×30時間となり・・・x≒53,445円となります。

すなわち、賃金総額30万円をそのままに、定額残業代を1か月あたり30時間分に相当する額と設定した場合、賃金総額30万円のうち、定額残業代は53,445円(基準内賃金(基本給)は、差額の246,555円)となります。

なお、計算の結果、上記の例ように、定額残業代の額が、キリの悪い数字になることが多くありますが、定額残業代は、必ずしも計算結果の金額そのものである必要はなく、計算結果の額を下回らなければよいこととされています。

※上記、計算例においては、便宜上、定額残業代以外に基準外賃金は無いものとして、また、割増率は1.25として計算しています。

定額残業代制度における時間設定

定額残業代制度においては、何時間分の残業代が含まれているのかを明確に定めることが必要です。

では、何時間分の残業代が含まれていることにすればよいのでしょうか?

これは、基本的に、会社の判断で決めることができます。

ただし、「36協定の限度時間」で説明したとおり、法定労働時間を超えて働かせることができる時間は、1か月あたり45時間(1年単位の変形労働時間制の場合は、42時間)と、限度時間が決められており、これを超えて従業員を労働させた場合は法律違反となるので、その観点からすれば、45時間以内の時間で設定することが妥当です。

しかも、1か月あたり45時間とは、法律違反にならないためのギリギリの限度時間ですから、社会通念上は、30時間程度、あるいはそれ以下の時間に設定するのが望ましいと言えます。

定額残業代制度の注意点

定額残業代制度において、賃金総額をそのままに、一定時間の残業代を含んだ賃金となるように、賃金制度を変更した場合、それは実質的に基本給相当部分が減額されることを意味します。(詳しくは、「定額残業代(固定残業代)とは」のイメージ図をご参照ください。)

そのため、次の3つのポイントについて、注意する必要があります。

不利益変更

上記のとおり、定額残業代制度の導入は、実質的に賃金が減額されることを意味し、これは労働条件の不利益変更に該当します。

そのため、この制度の導入にあたっては、それを実施する理由を従業員に対して十分に説明し、納得してもらい、その上で従業員から個別に書面で同意書をもらう必要があります。

または、従業員の同意を得ることなく、一方的に労働条件を変更するのであれば、それ相応の合理性が必要となります。

最低賃金

定額残業代制度を導入する際は、減額された基本給相当部分の金額(基準内賃金)が最低賃金法に定める最低賃金を下回らないように注意しなければいけません。

ちなみに、当事務所が所在する新潟県の地域別最低賃金は、時間給で1,108円(令和8年10月1日発効)、例えば、月平均所定労働時間が173時間の会社であれば、基本給相当部分の金額が 191,684 円以上になるように設定しなければなりません。

退職金の計算

基本給を基礎として、従業員の退職金を計算している会社もあると思います。

その場合、定額残業代制度の導入により基本給相当部分の金額が減額されると、退職金もそれに応じて減額されることになります。従って、そのような会社においては、「基本給+定額残業代」を退職金の計算の基礎とするなど工夫をする必要があります。

定額残業代制度と労働時間管理

定額残業代制度では、一定時間までは、賃金に残業代が含まれていることになるので、この制度を導入すると、中には、従業員の労働時間の管理を重要視しなくなる会社があります。

しかし、会社は、安全配慮義務を果たす意味でも、従業員の労働時間を適正に把握・管理しなければならず、「残業代が定額になること = 従業員の労働時間を管理しなくてもよい」 ことにはなりません。

また、定額残業代制度の要件でも説明しましたが、この制度においては、従業員の時間外労働(残業)の時間が、一定時間を超えた場合は、別途割増賃金の支払いが必要になります。その点からも従業員の労働時間を適正に把握・管理することは必要なことです。