就業規則の不利益変更とその方法
就業規則の不利益変更とは、賃金の引き下げ、労働時間の延長、休日の削減など、従業員にとって労働条件が不利益になるように就業規則を変更することです。
就業規則に一度定めた内容は、会社と従業員との間の労働契約となります。従って、就業規則の内容を従業員にとって不利益に変更すること(労働条件を不利益に変更すること)は簡単にはできません。
労働条件を変更する方法は、以下の3つの方法があります。
労働条件の変更方法
従業員と会社との合意によって変更する。
就業規則の改訂によって変更する。
労働協約の改訂によって変更する。
労働契約は、法律上の「契約」であるため、上記1の合意による変更が原則であり、上記2及び3は例外的なものとして理解する必要があります。
事実、労働契約法第8条では、以下のように定められており、労働条件の変更が合意によりなされるものであることを明確に規定しています。
労働契約法 第8条
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
一方的な就業規則の不利益変更は有効か?
「就業規則の不利益変更とその方法」で説明したとおり、労働条件を変更する方法は、次の3つの方法があります。
労働契約は、法律上の「契約」であるため、下記1の合意による変更が原則であり、下記2及び3は例外的なものとして理解する必要があります。
労働条件の変更方法
従業員と会社との合意によって変更する。
就業規則の改訂によって変更する。
労働協約の改訂によって変更する。
しかしながら、実際の問題として、従業員が労働条件の不利益変更に同意しないことも考えられます。
その場合は、例外的に上記2の就業規則を改訂すること等により、労働条件を変更することが考えられますが、その際、従業員の同意のない、会社側の一方的な就業規則の不利益変更が有効か否かが問題になります。
この点については、過去の裁判例(秋北バス事件:最高裁判決)により、基本的な考え方が示されており、合理性のある変更であれば、労働者が同意していなくても、有効であるとされています。
秋北バス事件 最高裁判決
元来、「労働条件は、労働者と使用者が対等な立場において決定すべきものである。」が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める労働内容の定型に従って、附従的に契約を定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけではなく、それが合理的な労働条件を定めている限り、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているものということができる。・・・・・就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、これに対して個別的同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けているというべきである。」
不利益変更の合理性の判断要素
「一方的な就業規則の不利益変更は有効か?」で説明したとおり、過去の裁判例により、合理性のある変更であれば、労働者が同意していなくても、就業規則の不利益変更は有効な場合があることが示されています。
では、「合理性のある」とは、どのような要素によって判断されるのでしょうか?
その点については、過去の裁判例(第四銀行事件:最高裁判例)により、合理性の判断要素の考え方が示されており、以下の事項等を総合的に考慮して、判断すべきであるとしています。
不利益変更の合理性の判断要素
就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
使用者の変更の必要性の内容・程度
変更後の就業規則の内容自体の相当性
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
労働組合等との交渉の経緯
他の労働組合または他の従業員の対応
同種事項に関する我が国社会における一般的状況
つまり、合理性があるかどうかは、就業規則の変更の必要性と、従業員が受ける不利益の程度等を比較して、総合的に判断するということになります。
そして、その考え方は、平成20年に施行された労働契約法第10条により集約されています。
第四銀行事件 最高裁判例
その作成又は変更が、その必要性および内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受任させることを許容するだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生じるものというべきである。
右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置、その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合または他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
就業規則の変更の必要性と従業員が受ける不利益の程度
就業規則の不利益変更に関する合理性の有無は、就業規則の変更の必要性と、従業員が受ける不利益の程度等を比較して、総合的に判断される訳ですが、過去の裁判例によれば、就業規則の変更の必要性は、以下の3つの概念に分けられ、その程度に応じて合理性を検討しているものといえます。
就業規則変更の必要性の概念
通常の業務上の必要性(不合理な内容の是正、社内の全体的な労働条件のバランスの見直しなど)
高度の業務上の必要性(合併による統一労働条件設定の必要性、55歳以上の高年齢者の賃金是正の必要性など)
極度の業務上の必要性(経営危機による人件費削減の必要性など)
また、従業員が受ける不利益の程度については、変更後の労働条件の内容、変更の程度(割合)の両面から考える必要があります。そして、変更の程度は事案によって異なりますが、変更される労働条件の内容により合理的判断も異なるものになるといえます。
特に、賃金や退職金は、従業員にとって重要な権利であるとして、その労働条件の変更には、「高度の業務上の必要性」が要求されます。その意味でも、賃金や退職金に関する労働条件の不利益変更は、高度の業務上の必要性と言えるか否かについての検討が必要ですし、その引き下げ額(引き下げ割合)も重要なポイントになります。
就業規則の不利益変更に関する実務上の現実的な対応法
就業規則を不利益変更する場合には、できるだけ経営上の事情、雇用を維持していくためのやむを得ない措置であることを丁寧に説明して、従業員に納得してもらう努力をすることが必要になります。
そして、その上で、従業員一人一人から個別に同意書をもらう必要があります。
「就業規則の不利益変更とその方法」で説明したとおり、労働条件の変更は、合意による変更が原則ですし、また、合意による変更であれば、合理性を判断することは必要ないため、会社は、できる限りこの方法により労働条件を変更するように努力すべきです。
しかしながら、従業員が労働条件の変更に同意しない場合や、多数の従業員がおり一人一人から同意書をもらうことができない場合には、就業規則を変更して、措置を実施していくことにならざるを得ません。
そして、その場合には、措置に対して不利益変更であり無効であって、それに従わないという従業員に対しては、合理性があり有効であることを主張できることが必要になります。
そのためには、第四銀行事件の判旨や労働契約法第10条の各要件を満たすことが必要になります。